デザインの流儀についてのメモ

デザインの方法論としてペルソナを利用する方法が提案されている。

ペルソナは、サービスやコンテンツ、プロダクトなどをデザインする際に、具体的に利用者を想定し、その利用者に対して最適化する方法である。もともとの提案者は、VisualBasicのデザイナ・プログラマとして有名なアラン・クーパー氏である。手法の概要は氏の著書「このコンピュータは使えない!」に詳しいのでそちらを参照してもらいたい。

ここでは概要だけをかいつまんで書く。くわしい話はアラン・クーパー氏の著作をまず読んでもらいたい。

ペルソナとは限りなくリアルに設計された仮想の(潜在・顕在)ユーザである。ペルソナを利用したデザインというのは、このペルソナに対して最適化した製品やサービスを設計・開発すれば、それは良いものになるという立場に立つものだ。

ペルソナは具体的であればあるほど良いとされている。ここでいう具体的というのは、ペルソナは歴史(個人史)、性格や価値観、生活のパターンなど、実在の人物と同様の情報を持つということだ。本当に存在している人を描写したかのようなレベルであることがのぞましい。

ペルソナを用いるデザイン手法のメリットは、ペルソナの設計が、本質的には誰でもできるということにある。イメージを限りなく詰めていけば良いのだから、時間をかければかけただけ、内容は完成度を増していく。そしてそのペルソナが喜ぶもの、幸せにするものを作ることができれば良いのだ。

しかし、このペルソナを用いた手法には常に賛否両論が生ずる。賛成的な意見をまとめると、デザインの素養が無くても、一定レベルのものを考えることができる点に集約されると僕は思う。逆の意見は、ペルソナに最適なものを作るということは実際の利用者に”革命”的な体験を提供できないという意見だ。

この否定的な意見を補う方法として、ペルソナを設計したあとにそれをデザイン設計の段階において利用する際の方法として、シナリオベースのデザインが提案されている。この方法は、イノベーションコンサルタントで慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の奥出直人氏が提案し実践するアプローチなどがある。

実際の内容は奥出氏の書籍などを読んでもらうのが望ましいので、あまり書かないが、ペルソナの振舞いを物語の中で記述し、サービスがどういう役割を果すのかを考えていく、ということに肝がように僕は考えている。物語を編むためには、舞台となる環境や状況に対してのリサーチや、テクノロジーへの理解など、さまざまなことが必要になる。また、プロトタイプを行いながら考えることも必要になる。

これらの方法では、基本的に、製品なりサービスなりを(潜在的・顕在的に)求めているユーザは、デザインのプロセスにおいて外在していることが前提となっている。つまり、誰かのためのデザインなのだ。この方法の真逆を行く方法もある。ペルソナを自分にする方法だ。徹底して自己欲求を客観的に捉えそれを満す方向にデザインをしていく。既存の価値観にとらわれず、また、自分自身と向き合うということを徹底するのは、生半可なことではない。このような方法を実践している人としてはPOBoxなどの漢字予測変換入力システムの考案者として知られている増井俊之氏がいる。彼の考案するものは、彼が便利だと感じたものであり、その便利と感じる力は普遍的な便利を生み出している。究極の”普通”の人なのだと思う。