IDEO way (1)

IDEOという会社の名前を知らないひとは、デザイン及び、経営の分野に関連する職業の人としてはもぐりと断言してしまって差し支え無いだろう。

このアメリカのデザイン会社は、デザインを単に綺麗な・魅了する・インパクトを与える形を作るのではなく、ものごとと人との関係性を改善したり、イノベーションを興したりするための手段にとしてのデザインに改変した。

今回はこのIDEOの事例をきっかけにして2回に分けてウェブデザインの方法論について少し考えたいと思う。

IDEOのアプローチの根本にあるものは何か、という問いは常に生じるものだが、根本的な要素は3つに絞ることができる。一つは、徹底した観察である。そしてもう一つは、徹底したラピットプロトタイプである。それに加えて、この2つに徹底的に最適化した組織のシステムにある。

観察とは、改善しようとするものごとと人とがどのような関係にあるか、人がそのものごとに際したとき(あるいは使おうとしたとき)、人がどのように行動するか、試行(思考)するかを全て見聞きすることである。この見聞きは幾度となく行われる。そしてその結果を整理し、全てを理解する。このような方法はユーザスタディとも呼ばれるが、IDEOの場合のそれはさらに徹底しており、実験室のような作られた環境ではなく、実際の場、もしくはそれに準じた状況において行なわれる。この背景には、現象は個別に存在するのではなく、周囲の現象が必ず関与する、当たり前といえば当たり前の現象学的な世界の理解がある。

ラピットプロトタイプとは、思い付いたアイデアをできるだけ素早く、荒く作るということだが、前者の観察をより強化するための方法でもある。デザインすべき本質さえ形にできていれば、それをどのように人が使うか、理解するかなどを実際に観察することができる。また(このことは見落されがちだが)顧客と合意を形成するための手段でもある。顧客とデザイン会社の間で何を作るのかを決定するのは実は容易なことではない。何故ならば、いわゆる仕様書はデザインの本質的な部分を言語化できないためである。そのため、ラフスケッチや、何らかの形を用意し、その形を合意する必要がある。ラピットプロトタイプはいわば具体的な形をもった仕様書である。

IDEOはこの2つ要素を限界まで利用することで、圧倒的なスピードでものごとをデザインすることを可能にしている。しかし、単にこの2つを行えば良いということではない。この2つをシステム化(手順化とも言える)し、かつ、ものづくりの組織の構造やプロセスをこの2つに最適化する必要がある。IDEOの強さの秘密は実はこの最適化にある。

この最適化の片鱗は、創業者の一人トム・ケリー著「イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材」において述べられている。この書籍では、IDEOで働くクリエイティブを10種類の人物像に分類し、紹介している。それぞれが専門的に仕事をする(できる)ようにすることでシステムとしての最適化を実現している。また、この10種類はそれぞれ固定された担当者がいるのではない。個々人においては、得意不得意はあるだろうが、チーム編成によって、決定される。これは、他の人が何をしているのか、このあと何をするのか、などが経験的に理解しあえるということである。このような組織の編成の仕方は、良く訓練されたサッカーチームへの言及においてしばしば言及される「個々の選手の背中に目があるような」チームワークを生成する。ここにも最適化がある。