つくばチャレンジ(その1)

今日、ニュー・テクノロジー財団主催の、「つくばチャレンジ」というイベントを見学させてもらった。

このイベントは、一般の人が行き来する公道で、自律型ロボット(車両型)を実際に走らせ、課題(約1kmの規定コースの往復)に挑戦するというユニークなイベントである。

このように書くと、それのどこがユニークなのか?、そしてそもそもどこがチャレンジなのかと疑問に思われるかもしれない。しかし、あなたの家の前をロボットは勝手に走っていたことがあったかということを少し考えていただきたい。おそらくほとんど無いだろうと思う。ロボットは公道を自律的に走行できないのだ。できないのは、技術的な問題と法的な問題の2つの面がある。後者はいろいろ複雑なので簡単に述べてしまうと、「人工知能が起こした事故の責任は誰がとるのか」ということについて、まだ我々人類は結論を得ていないためだ。

では技術的問題とはどういうことだろうか。そのまえに、我々人間が公道を移動しているときのことを少し考えたい。我々は公道を移動するとき、前方に何があるか、目的地までどういう道順にするか、前後からやってくる歩行者、自転車、自動車などをどのように避けるかなど、さまざまなことを同時にこなしている。

これらを同時にロボットが行なうのはとても大変なことだ。

例えば、搭載したカメラで道順を考えるための目印を見付ける、これだけでも高度な画像処理の技術が必要となる。また、公道はデコボコしている、それを計測し、適切なコース取りをさせなければ、ロボットはひっくり返ってしまったり、立ち往生することになる。

アメリカではDARPAチャレンジというイベントで、自律型ロボットの自動車に砂漠や市街地を模したコースを走行させ、指定のコースを完走させるという取り組みが行なわれている。しかし、この場合、公道のような不測の自体は発生しないので人にもロボットにも安全である。また自動車を使用しているため潤沢なセンサ類と十分な性能のコンピュータを搭載することができる。エンジンが発電するため十分な電力も供給できる。対して、つくばチャレンジの場合、本当の公道で、人が行き来している。したがって、DARPAチャレンジのように大型の自動車をロボットの機体として使用することはできない。ロボットの大きさはせいぜい、車椅子くらいが限界だろう。そしてそれはロボットに搭載できるセンサやコンピュータ、それらを動作させるためのバッテリの数や大きさ(重さ)についてものすごく厳しい制約要件として効いてくる。

DARPAチャレンジなど霞むくらいの難易度の高さなのだ。

ロボットと言うと、多くの人はASIMOのような2足歩行ロボットを思い起こすのではないだろうか。ASIMOは、確かにすごいロボットである。しかし、ASIMOはASIMO単独で、公道を歩くことはない。ASIMOをコントロールするためのコンピュータが別の所にあり、人工知能が自律的に制御しているわけではないためだ。ASIMOが我々の家の前を歩いて通り過ぎていくことは、よほどの技術的な革新がおこって、ASIMOにASIMOを制御するための全てのコンピュータが組込まれるようなことが無ければ難しいだろう。それにそもそも、公道のようなデコボコで人間でもたまにこけてしまうことがあるようなところを極めて高価な2足歩行ロボットがてくてく歩いているなんてことは当分無いだろう。

このチャレンジはまだ始まったばかりで、昨年の完走率は1割にも満たない。しかし、科学技術が実社会に着地するための大きな1歩なのだと思う。